1.はじめに
日常生活の中で、例えばスポーツをしているときに他人と接触して死傷させたり、買い物中に陳列してあった陶器を誤って破損させてしまう等の事故やトラブルに遭遇するかもしれません。この場合、民法により相手に対する損害賠償責任が発生する可能性があります。損害賠償額の支払いは、個人さらには家族全体に大きな経済的ダメージを与えることになります。今回はこの損害賠償リスクに対して、家庭で取り組むべきポイントにについて解説します。
2. 自転車事故の賠償判例に見る生活上のリスク
歩いている横を自転車が猛スピードで走り去って、ヒヤリとした経験をお持ちの人も多いことでしょう。自転車を運転中に歩行者に衝突して死傷させた場合、歩行者に対して損害賠償責任が発生する可能性があります。加害者が未成年者の場合は、親権者などが損害賠償責任を負うことになります。
自転車事故における高額賠償判決の代表例として、11歳の小学生が62歳の歩行中の女性に衝突し、頭蓋骨を骨折した女性の意識が戻らない状態となり、9,521万円の支払命令が出されたケースがあります(神戸地方裁判所・平成25年7月4日)。このようなリスクが現実のものとなった場合に、簡単に対処することはできません。
3. このリスクをカバーする個人賠償責任保険とは何か
このように法律上の損害賠償責任を負担して、経済的に損害が生じたことを補償する保険商品が、「個人賠償責任保険」です。この保険商品の一般的な被保険者、つまり補償の対象となる人は、
・記名被保険者本人
・記名被保険者の配偶者
・記名被保険者またはその配偶者と同居する親族(6親等以内の血族と3親等以内の姻族)
・記名被保険者またはその配偶者と別居する未婚の子
となっています。ひとつの契約で、家族全員の損害賠償責任をカバーすることができます。
4. こんなリスクも・・・
平成28年3月1日、認知症患者が鉄道会社に与えた損害について、賠償義務がないとする判決が最高裁で出されました。これは平成19年12月、愛知県のある駅の線路にいた認知症患者の91歳の男性が電車にはねられて死亡した事件で、鉄道会社が死亡した男性の遺族に対して振替輸送の費用や遅延損害の支払いを求めていたものです。
鉄道会社は、死亡した男性のような責任無能力者の損害賠償責任は、一定の親族が「監督義務者」として責任を負うべきであるとし、訴訟を起こしました。一審、二審とも遺族が鉄道会社に損害賠償金を支払う判決が出ていましたが、男性の遺族はそれぞれ控訴して、最高裁で遺族には損害賠償責任はないという逆転判決が出ました。
この判決では、今般の諸事情を勘案し、遺族の損害賠償責任は免れました。しかし、別のケースでは監督義務者としての対応いかんによっては、損害賠償責任を負う可能性を残しました。したがってこの判例は、すべてのケースで責任無能力者の監督義務者の損害賠償責任が免除されるわけではないと認識すべきです。
仮に認知症患者と同居する親族などが個人賠償責任保険に加入していた場合、電車に対する物的な損害を与えれば、それについての賠償保険金は支払われた可能性があります。しかし、与えた損害が財物の損壊ではなく、遅延損害など財物の損壊を伴わない場合は、一般的な個人賠償責任保険では補償されないのです。
5. 最近の補償内容の改定
最近、個人賠償責任保険の被保険者について、前記3.の被保険者が未成年者または責任無能力者である場合、従来の商品では被保険者に該当しなかった法定の監督義務者、被保険者の親権者も含める、と改定する商品が出てきました。
この商品改定により、別居している認知症などの責任無能力者を介護する家族や、幅広い監督義務者の損害賠償責任を担保できる道筋ができました。今後さらに進む高齢化社会では、必ず加入しておきたい保険商品です。
6. まとめ
一般的に、この商品は火災保険などに付帯する特約として販売されています。今後は、個人賠償責任保険特約が幅広い補償内容となっているかどうか、という点に着目して火災保険等を選択する考え方も出てきたと言えます。
以 上